読んだ本

性的虐待を受けた少年たち―ボーイズ・クリニックの治療記録

すごくわかりやすかったし、結構読みやすかった。

基本的には、ボーイズクリニックで治療を受けた少年たちの個別の記録と、それらの記録から得られる知見・治療方法について、という内容。

前段として、性的虐待に関する前提の共有がデータを用いてされていたんだけど、この部分が最低限の知識を与えてくれるのと、その後のボーイズクリニックの記録における記録を読み解く補助になっていてよかった。ひとつだけ言うなら、データに関してはほとんと文字で羅列されるばかりで読みにくかったので、視覚的にまとめた表とかグラフとかあったら嬉しかった。

その後に続くボーイズクリニックの診療記録については、大まかにいうと、患者の少年たちの症状と詳細な診療方法は安易に一般化できないということ、しかし大まかな対応方針を立てて診療にあたることは可能であり、大まかな対応方針にはのっとりつつ細かいプロセスは患者の少年たちの諸症状にあわせて柔軟に対応していくことが重要、とのこと。こうやって一言でまとめてしまうとそらそうだよねって感じだけど、この柔軟に対応するという点が難しく、この難点に対する一助として、それこそこの本みたいな診療記録が役に立つんだろうなと思う。個々の少年たちの診療記録は、重要なポイントが漏れないように、しかしわかりやすくまとめられていて読みやすかった。あと、少年たちが受けた被害についても記載されているんだけど、それが過剰に感情移入をさせない程度の記述になっていて、そのあたりのバランス感もよかった。

大まかな対応方針として、「虐待経験について語る・感情を表す・拒絶する・受け入れる」という4段階をあげていたけど、これは私自身が生活を営む上で直面するいろいろな事情にあたっても大事な方針だなと思ったので、覚えておきたい。

9人の児童性虐待者

こういう分野に関して勉強が足りてないせいなのか、わかりにくい部分はあったけど、実証的な記録としてだいぶ価値がある内容だったと思う。

大まかな内容としては、タイトルの通り、9人の児童性虐待者に聞き取りを行った記録なんだけど、そもそもの聞き取りの方向性・目的として、児童性虐待者がどういったナラティブ(物語)を語るのか・そのナラティブの形式は本人のどのような意図を反映しており、さらにはその意図はどのような社会的要素を反映しているのか、という部分の解明をしよう、というものがあるので、それぞれの聞き取りの後に、この人のナラティブにはこういった傾向があった、というまとめがある。

この目的に関して、前段と後段に「これこれこういう理由で児童性虐待者のナラティブを読み解くことには今後の児童性虐待を防ぐためにも役立つ」っていう記載があるんだけど、この部分がだいぶわかりにくかった…社会学とかの用語なのか、耳慣れない単語が頻出してて、なんとなくの理解はできたかと思うんだけど、細かいニュアンスとかまではたぶんわかってないと思う。このあたり注釈とかあったら嬉しかった…まあ初学者向けでないと言われたらそれまでなんだけど。

メインどころの児童性虐待者の語りに関しては、自己弁護的な語りが多くて、それゆえにいや勝手~~~とか感情的になりながら読んでしまうところもあった。この本の目的を考えるとあんまりいい読み方ではないな。でもこう、わりと理解できるレベルの原理で行動しているがゆえに、筆者も言ってたけど児童性虐待者は理解不能な怪物ではなくそのへんにいる普通に見える人間だということを感じて、いやあかんやろ~~~みたいな気持ちになったところもある。まあ、この行動原理に関しては、作中で言われている通り、社会一般の人が抱いている児童性虐待者のイメージに自分自身を当てはめようとしてこういう語りになっている、という点もあるので、理解できるレベルの内容になっているのかもしれないけど。

語りに社会一般のイメージが反映されるように、社会一般のイメージが行動を規定するというのは大いにありうることだと思うので、確かに、児童性虐待とそれに関連することについて社会が抱くイメージを変えるというのは必要なことだなと思った。(とりあえず児童性愛者≠児童性虐待者であることとかね)

性犯罪の心理

これ厳密には途中までしか読んでない。ちょくちょく根拠が薄い持論(女性専用車両の中がある意味地獄になっているらしいのでやめてほしいものであるとか、少年を相手にする性犯罪は同性愛的傾向が強いので治療は難しいだろうとか)を述べてくるので、そもそもの全体の記述に関する信頼度がどんどん落ちて行ってなんかもういいかな…となってしまった。