池澤夏樹=個人編集 短編コレクションⅠ

南部高速道路

読みにくかった…!段落区切りがないのと、車種が登場人物の代名詞になってて誰が誰だったかわからなくなってしまって頭ごちゃごちゃしながら読んだけど終盤のカタストロフィがすごい。閉塞しているが何日もすれば抜け出せるだろうと思っていた状況が、当初の想像を超えて延々と続き、それがいつしか日常のようになり、しかしそれはやっぱり日常ではなくてあっという間になくなってしまうものだったという。

この停滞した閉塞感とそれが瓦解するスピード感の落差が面白かった。

波との生活

ザ・異類婚姻譚だけど愛の高まりと熱の冷めようは人間同士の恋愛にも通ずるところ。互いへの感情が支配と隷属に変わり、しかし最後にはその支配関係もあっけなく逆転し終わってしまうという、これも感情と状況が変化するスピード感がすごくよかった。

あと波の人ならぬ魅力の描写が面白かった。

白痴が先

この救いようのなさ。あっという間の短さで描写されているところが、死というリミットが迫った人間の切実さと悲壮感をより強めていたと思う。

タルパ

永遠に続くであろう罪悪感の話だった。死者に対して生者はもう何もできず、その何もできなさが生きている人間に重くのしかかる。関与できないが故に罪の意識が軽くなることはたぶんもうないんだろう。生きている間にはどこかで死を願っていながら、しかし死なれたら死なれたで忘れることもできない身勝手な心情が、非難するでもなく許しをこうでもないバランス感で書かれていて面白かった。

色、戒

エンタメ小説という感じ。結局ロマンス落ちかーーい

肉の家

厳しさが人をある種の奔放さ・解放へ駆り立て、そのコントラストが重くのしかかりつつもめっちゃエロい。これからどうなってしまうんだ…

小さな黒い箱

たぶん読んだことある。舞台設定の面白さよ。感情移入できなくても面白い話は面白いね。アンドロイドは電気羊の夢を見るかも読まなきゃ。

呪い卵

最後の断絶でいっきに突き放される感がすごい。文化と非文化の断絶でもあるのかな。

朴達の裁判

圧倒的な、一人では超克が難しい現実に対して、明るさと面白さと覚悟をもとに立ち向かうさまが地に足ついた明るさで面白かった。

夜の海の旅

生なんて運ゲーで意味なんかないんでしょうね

ジョーカー最大の勝利

この不可解な、無味乾燥な読後感はなんなんだろう。

レシタティフーー叙唱

一時の関係性であった二人が、何度もまた一時の関係性を繰り返す。お互いがお互いを一生の支えにするような大層な関係ではないし、時には思想的な反目もする。会うたびに二人とも変化していて、そのことに対して過剰に非難するでも、温かく受け入れるでもない。ただお互いがそうなってしまったというだけで、出会ったという事実やそのときの感情はその後の日常に埋もれていく。そんな二人が最後、最初の頃の思い出に関しての誤解を解きたい、わかりあいたいと思うのは、ある種希望的な終わり方じゃないかなあと思った。

サン・フランシスコYMCA讃歌

町田康的な面白さがあった。

ラムレの証言

この短さで、すごく大きな感情が語られていた。終始少年の一人称だから、アブー・オスマーンの感情については推し量るしかないけれども、人々に語り、愛され、ラムレの墓地に埋葬してくれと言っていた人間が、自身も周りも巻き込んだ爆破を選ぶという事実の重さと、その重さを選んだショックや悲しみや怒りのことを思わせる。

冬の犬

犬も人間も自然の一部であり、自然の中での力関係は絶えず変わっていく、その流動にはあらがうことができない、という自然そのものの強さを感じた。

ささやかだけれど、役にたつこと

悲劇の後のこと。悲劇のあとにも残された者の時間は進んでいく、どうしようもなく進んでいって、それは悲しいことでも希望でもあるんだろうな。

ダンシング・ガールズ

似つかわしくない人々を排除していた主人公が、最後にはユートピアを描く。そこに至るまでの間に劇的な出来事はないけれど、隣にいるというだけで変わっていくものもある。

生きてる間に親孝行(親孝行をしたいと思える親ならば)

猫の首を刎ねる

社会はどんどん変わっていって(流行りはもう古い)、幼少期の環境と、そこから派生した今の自分と、折り合いをつけるのが難しい場合もある。

面影と連れて

出来事としてはひどいことばかりだけど、本人がそれらに対して壁を隔てた状態でいるので(最終的には幽体離脱しちゃうし)、悲壮感よりも力強さみたいなものがあったような気がする。