木原音瀬「ラブセメタリー」感想

しんどい。しんどいけど面白かった。

何がしんどいって、わかりあえなかった久瀬と町屋のこともだし、わかりあえないことについて、どちらが一方的に悪いとか断じられないすっきりしなさもだし、関係性が180度変わってしまった伊吹と久瀬もだし、これについても久瀬は伊吹にトラウマになるような出来事をしたわけじゃないけど、実際に自分が欲を向けられていたとなると伊吹が純粋な愛情だとは信じきれないのもわかるし、森下の欲の対象にされた子供たちのこともだし、でも森下もきっかけがなければあそこまではいかなかったんじゃないか、ということもだし、他にもいっぱいある。

これらのほとんどについて、いい人とか悪い人とか、何かの行為がいいか悪いかとか、白黒はっきりつけられない。そのせいで、読み終わった後も心がざわざわしていて、あれはダメだろ、でもそこに至った経緯を考えると一概に非難するのは暴力的じゃないか、とかどっちつかずな思考がぐるぐるしている。

もちろん、森下が子供たちにした行為とかは絶対に許されないし、自分のしたことを正当化しているところとかも庇いようはないんだけど、何かがひとつ違えば人生もまるっと違ったんじゃないかとか、子供への性的加害を行う側面以外の、仕事や周りの環境に苦しめられるところだとか、教育に情熱をもってあたっていたところだとかを考えると、森下個人に嫌悪感を抱くだけで終わっていいのかとか、また考えがまとまらなくなる。

しんどいんだけど、読み終わった後もずっと引きずられるのが面白い。

他の木原作品もどんどん読みたい。「箱の中」も買ったまま積んでしまってるんだけど早く読もう。